キラリと光れるか、静岡

執筆者
タカ植松
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過去2回、よそ者ならではの視点で書きたいことを書いてきた。もしかすると、長く静岡に暮らす人にはピントのズレたように感じることもあったかもしれない。でも、それは、あくまでもよそ者の視点ということでお目こぼしをいただければ。

 今年、県内に居を構えてから、「よそ者の視点で静岡を感じよう」とアンテナを張ってきた。可能な限り、静岡市や駿豆エリアを中心に県内各地に足を運んで、いろんなものを見聞きしてきた。今回は、そんな中で得た「気付き」をもとに、ある都市を参考にしながら静岡が目指す方向性を探りたい。

 ここで引き合いに出すのが、人口約158万人と日本で6番目の人口を誇る福岡。同じ政令指定都市ながら人口約70万人と、政令指定都市で第20位の最下位である静岡とその周辺地域が参考にできることはあるのか―。

 筆者が生まれ育った福岡は、大学進学を機に上京してから四半世紀を経て、さらに魅力的な街へと発展した。福岡で暮らしたい人々の多くが移住先として憧れるという人気の「糸島」は、昔は田舎の代名詞のようなところだったのだが・・・。それはほんの一例に過ぎず、福岡都市圏は、近郊地域がそれぞれの付加価値を持って発展していくことで、都市圏全体として活き活きと成長を続けている。

 最近は九州に留まらず、日本各地から人が流入するという福岡。多くの若い女性がその街と文化に憧れてやってくるので、日本でも有数の「女余り」の都市でもある(!)。一方、静岡は、東京と名古屋の狭間で人口流出は進むばかり。静岡市は政令指定都市の中で人口増減率ワースト2位という統計もある。そういう人の動きや街の活力では、残念ながら、静岡は福岡にはかなわない。

 では、フォーカスしたい福岡と静岡の共通点とは何か。

 それは、コンパクトな都市環境にある。福岡の中心地・天神から車を30分も走らせれば、都会の喧騒は消え、人々の日常の生活が垣間見え、やがて手に届くところに自然が現れる。静岡は、その自然との距離感がもっと近い。市内中心から10分少々のところに注目の用宗のようなエリアも育ってきた。もう少し足を延ばせば、日本平やオクシズなど別世界が広がる。

 このような環境で暮らす人たちは、オンとオフの切り替えにさほど時間を掛けないで済む。これは、毎日往復で通勤に34時間も取られてしまう首都圏のビジネスマンからすれば夢のような話。こういったコンパクトな街の「暮らしやすさ」こそ、IターンやUターン、または首都圏との「二拠点生活」の選択肢として考慮されるに何よりも重要であるのは言うまでもない。

 福岡は、「暮らしやすさ」イメージ作りに長けている。その街の魅力は、街を挙げてITやスタートアップ企業がオフィスを構えたいと思わせる環境づくりに腐心した結果、実際に新しく移ってきた人々とローカルの人々とのコラボレーションで様々なムーブメントが産まれたことにより高められた。新しい世代が新しい魅力の街を作っていくことで、独自の「福岡らしさ」がカルチャーとして根付いたのだ。そんなマインドの高い人々が、コンパクトな街の中で自由闊達にオンとオフの両側で街と絡む。そこが、福岡が地方都市の成功例としてもてはやされる所以でもあるが、これは静岡も大いに参考にしたい。

 そんな福岡の弱みは、日本最高を誇る中心部から空港へのアクセスをもってしても拭えない東京との物理的な距離。飛行機、新幹線の利便性がいくら上がっても、東京への“通い”ができるのはコスト面も考えれば、ごくごく一部の層だけだろう。

 しかし、静岡は違う。首都圏への物理的なアクセスの良さこそが最大の売りだ。名古屋にも近いし、関西も思うほど遠くない。新幹線、JR、そして東名高速と日本の大動脈が静岡を通過するほどの交通の要所。県東部の三島や熱海には、東京への通勤者(コミューター)も多い。静岡から東京への高速バスは、片道料金最安で2,000円也。時短を狙うならば、新幹線に飛び乗ればいい。早い、安い、便利と選択肢は揃っている。

 このご時世、ラップトップとWIFIさえあればどこでも仕事ができる。オフィスにいる必要のないワーカーも増えてきた。だからこそ、静岡と東部の市町は首都圏への利便性、そして、富士山に代表されるような自然豊かな環境を前面に打ち出して、静岡と首都圏を行き来して仕事をする人、または、いつかは静岡に戻りたいと思っている人々などにどんどんアピールしたい。

 具体的な施策を考えるのは行政の仕事だが提案はできる。自治体が首都圏への通勤者の通勤コストを助成とか、一定の条件を満たす新幹線や高速バス利用客に割引料金を設定するなど、色々アイデアはあるだろう。そして、それらの対象者に段階的に静岡に拠点を置いてもらうように働きかけていく必要はある。長泉町の地元に暮らしたまま首都圏の大学に通う大学生対象の「新幹線通学費補助制度」などは、先進的な取り組みとして大いに参考になる。

 とにかく、静岡は人材流出を嘆いてばかりではいけない。有為な人材が地域に関わる仕掛けを作って、どんどん人を呼び込まなければならない。スタートアップ企業にやさしい施策、そして、首都圏と静岡をフットワーク軽く行き来する人材や移住を考える人々の肩をそっと押す行政や地元経済界の働きかけ。それらがうまく相まって、コンパクトでアクティブ、そして、オン/オフともに満喫できる街が育っていく。

 そんな街の魅力がさらに人材を集め、新たなカルチャーを育む。そうして静岡とその周辺地域は、大都市圏にはない魅力を持つ、キラリと光るユニークな都市圏へと育っていくはず―少なくとも、そうなるポテンシャルが静岡にはある、とよそ者ながら感じている。

【了】

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タカ植松:ライター、コラムニスト。静岡県にルーツを持つが、今年になって静岡東部に居を構えるまで、静岡在住歴は通算でも1年に満たない“よそ者”。海外で通算14年暮らしてきたアウトサイダーがゆえに感じることをフックに、静岡のビジネスパーソンを刺激するトピックで問題提起ができればと、今回のコラムの執筆を決意した。