突き抜けろ、静岡

執筆者
タカ植松
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「うどん県」から学ぶこと

「うどん県とは?」と問えば、ほとんどの人がためらわずに「香川県」と答える。いまさら、例として挙げるのが恥ずかしいくらいに「うどん県」は人口に膾炙している。最近ではまれにみる自治体マーケティングの成功例として、高い評価を受けている「うどん県」キャンペーンは、なぜ、成功したのか。

 その答えは、歴代の知事を始めとした県の当事者、そして、“副知事”の俳優・要潤らを起用してのプロモーションなど、そのすべてに共通する「突き抜け感」にあるように思う。今年のエイプリルフールには、ポケモンとのコラボで「ヤドン県」に“改名”して大いに話題をさらうなど、見せ方も上手い。香川県観光協会による観光ポータル「うどん県旅ネット」に至っては、その内容に目を移しても「うどん県の○○」という表示で、主語に「香川県」は使われていないから徹底している。

 そんな影響は、お堅いはずの香川県公式サイトにも伝播している。トップページの「香川県」の表示の上の目立たぬところに「かがやくけん、かがわけん。」というコピーがあるにはあるが、その横には「うどん県それだけじゃない香川県」とかぶせてある。極めつけは、ドンと大きく名物の「讃岐うどん」が惜しげもなくその姿を晒すトップページのメイン写真。もう、県を挙げての「うどん県」推しが誰の眼にも明らかな作りになっている。

 なぜ、香川県は2011年の“改名”以来、「うどん県」を県挙げてアピールし続けられるのか。実は、その要因は、ほぼ「香川県=讃岐国」である歴史的背景と地勢にあるのではないか。それもあって、県全体としてのアイデンティティにブレがない。ようは、気兼ねなく「香川=讃岐=讃岐うどん→うどん県」と大胆なマーケティング手法を打ち出し、県を挙げて推進していける環境が整っている。それが、絶えず新しいものを創り出し、存在感を発揮し続ける原動力となって「うどん県」のブランド力は向上し続けている。

「静岡」のイメージ戦略は・・・

 と、ここまで793文字もの字数を「うどん県」に割いたが、私は香川県の回し者でもなんでもない。静岡のブランド力を今より質量共にぐっと向上させる必要を感じていて、それには「うどん県」と同じかそれ以上のインパクトを出す必要があると思って引き合いに出したまで。静岡県にも「ふじのくに」という別名があるのは知っている。その「ふじのくに」を使うか使わないかはともかくとして、静岡が「うどん県」のようなアピールをしていけるのか少し考えてみたい。

 日本国内では「静岡」の知名度は決して低くない。ブランド総合研究所実施の「地域ブランド調査2015」では、静岡県の「認知度」は47都道県の中で上位と言って差し付かえのない13位。「魅力度」も中の上に位置する20位とまずまず。単純比較にはなるが、香川県は、前記の2種類の指数でそれぞれ35位、33位と、いずれも静岡が圧倒している。

 それなのに、「静岡」のイメージは今一つ。「Why?」と頭を捻って行きついた答えが、静岡に「うどん県」的な突き抜け感のあるマーケティング手法がないからではないかという仮定。確かに、静岡には、くまモンやふなっしーほどのインパクトを出せるゆるキャラもいなければ、「うどん県」要潤副知事のように継続的にメディアに取り上げられる存在も少ない。

(ちなみに「ふじのくに観光大使」が誰かご存じ?? 答えは、当稿の最後にて)

「富士山」頼みで、いいじゃないか!

 そんな静岡にもキラーアイテムはある。言わずと知れた、天下無双の「富士山」だ。だからこそ、その富士山にあやかろうという手法は、静岡のマーケティングの基本であり続ける。その最たる例が、富士山静岡空港。運航便数や乗客数などは期待通りには推移していない現実はあっても、あのネーミングは悪くない。実際、滑走路から見る富士山の眺望はなかなかのものだし、もっと注目されてもおかしくないポテンシャルは秘めている。

 逆に驚いたのは、今年から始まった「熱海国際映画祭」。この映画祭の英名は、なんと「The Mt.Fuji-Atami Film and VR Festival」。熱海で富士山が見えるのは十国峠だけで、会場となった市街地からは富士山は全く見えない。それでも臆さず、キラーアイテム「富士山」をねじ込んでくるとは、なかなか強気。でも、それがフックになって少しでも海外の人に興味を持ってもらえれば御の字という考え方はアプローチとしては間違っていない。

 しかし、そんな「富士山路線」もオールマイティたりえない。東西に長い静岡県は、かつては遠江、駿河、伊豆の三国にまたがり、地域性などもかなり異なる。それもあって、アイデンティティ面で「オール静岡」的にまとまるのも簡単ではない。実際、県西部は名古屋経済圏、中部・東部はいろんな面での首都圏と持ちつ持たれつの状態にあり、どうにも、県としてのまとまりに欠けるのは周知の事実。

 さらに、今、元気なインバウトで日本を訪れる人々に目を向けてみる。海外での「静岡/Shizuoka」の知名度は、おそらく皆さんが思う以上に低い。正直言って、悲しくなるレベルだ。それでも、「富士山/Mt Fuji」の知名度と影響力は絶大。富士山のことを切り出せば、「あー、マウント・フジなら知っている」となる。私は、そのやり取りをするたびに、『「富士山=静岡」なんだよ!』と必死に刷り込むが、その効力はどの程度なのかは疑わしい。

静岡にも「富士山駅」を

 そうこうしているうちに、インバウンドの富士山需要はライバルの山梨県の後塵を拝し、成田着のインバウンド客で富士山を目指す人の多くが山梨県側に流れているのが現実。それには、富士急が11年に富士吉田駅を「富士山駅」と改称、高速バスをバンバン走らせることで「富士山=山梨」の認知度を日々高めていることが大きい。

 それに比べて、静岡は富士山を生かせず、セルフブランディングも中途半端になってしまっている印象はぬぐえない。国内外の人に「静岡/Shizuoka」を知ってもらうには、「富士山/Mt Fuji」を国内外向けに今までとは違うやり方でアピールしていくべきだ。その最初の一手は、まず、JR東海に掛け合って、新富士駅をそのものずばり「富士山駅」に改称するのはどうだろう。車内放送で「Next station is Mount Fuji, the gateway of famous Mount Fuji‥‥」とやってもらうだけで、どれだけのインパクトがあるか。

 試しに、期間限定で、静岡県を「ふじさん県」に“改名”してみるなんてのも一案。そして、その期間だけは、どうしても西を向きがちな浜松市が、仕込みの“静岡からの独立宣言”を出す、みたいな遊び心があってもいい。そんな遊び心を実際のマーケティングに落とし込むマインドこそが、ここでいうところの「突き抜け感」なのだ。

今こそ、静岡の「突き抜け」時

 富士山を背負って活躍すべき存在でありながら、その持てるポテンシャルを発揮しきれていないのが、ふじっぴー。静岡県の公式情報によれば「静岡県のシンボル富士山がモチーフ。体の青は、駿河湾のブルーを表す。おしりがプリッと跳ね上がっているのは、しずおか県の頭文字「し」をかたどっている」とのこと。しかし、このふじっぴー、富士山由来なはずなのに、なぜだか、「し」を重視した結果だろうか、富士の裾野を無視したフォルムになったことで、ビジュアルでの肝心の“富士山らしさ”が抜け落ちてしまっているのはいただけない。できるなら、すぐにマイナーチェンジをお勧めしたい。それと同時に、ふじっぴーのキャラ設定を急遽「突き抜けキャラ」に変えるギミックを仕込んで、キャラを立たせてみるのも面白い。

 今、こうしている間にも、インバウンドの多くの観光客は、「静岡」を新幹線で通過し、富士山の写真をカメラで車窓から収めている。地方からの観光客も、新幹線、東名、飛行機で「静岡」を通り過ぎていく。その中の一人でも多くが立ち寄り、楽しみ、泊まってくれるデスティネーションに、「静岡」はなっていかなければならない。

 よそ者としての言い捨て(書き捨て)御免の問題提起はした。このまま、来年のRWCや2020年のオリンピックのようなアピールチャンスを迎えてしまうのは、余りに惜しい。官民学財、そして在野の有為な人材を集めて、ここは、ひとつ突き抜けてみて欲しい。静岡にはポテンシャルと素材は揃っている。足りないのは、それを生かして思い切ってやってみること、すなわち、突き抜けることなんだと思うがいかが?

追記:上のクイズの答えは、伊豆市出身の研ナオコさん、清水出身の春風亭昇太師匠のお二人だそうです。

【了】

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タカ植松:ライター、コラムニスト。静岡県にルーツを持つが、今年になって静岡東部に居を構えるまで、静岡在住歴は通算でも1年に満たない“よそ者”。海外で通算14年暮らしてきたアウトサイダーがゆえに感じることをフックに、静岡のビジネスパーソンを刺激するトピックで問題提起ができればと、今回のコラムの執筆を決意した。