産後にやってはいけないこととは?

妊娠・出産を経て、母体は大きな変化に直面し、すぐに妊娠前の状態に戻ることは期待できません。この重要な過程として、6~8週間の産褥期があります。この期間には、妊娠中とは異なる症状に悩まされることがあり、無理をすると回復が遅れ、更年期障害にも影響する可能性があると考えられています。そのため、夫婦や家族で産後の過ごし方についてじっくり話し合うことが大切です。以下では、産褥期の過ごし方や避けるべきことについて詳しくお伝えします。

 

産褥期とは?産後の体の変化や過ごし方について

産褥期は、出産後に子宮が妊娠前の状態に戻るまでの期間で、一般的には6~8週間ほどです。妊娠中、子宮は約10ヶ月で20~30倍に大きくなり、出産時には赤ちゃんが通るために骨盤も広がります。これにより靱帯が伸びたり、骨に負担がかかることもあります。また、妊娠中に活発だったホルモンの分泌も出産後に急激に低下します。

産褥期は、交通事故に遭った場合の全治1~2ヶ月に例えられるほど、女性の身体にとって大きなダメージを受ける時期です。この期間を大切にし、ゆっくりと適切に過ごすことが母体の回復に不可欠です。身体を妊娠していない状態に戻すために慎重に対応しましょう。

 

産後の身体の変化・痛み


分娩後、胎盤が剥がれ落ちると、体内のホルモンが急激に切り替わり、妊娠維持から母乳分泌や子宮の元の状態に戻す動きが始まります。これにより産後は身体やメンタルが大きく変動する時期となります。産後の身体の変化や痛みについて詳しく見ていきましょう。

 

子宮が収縮する・後陣痛

妊娠中に20~30倍の大きさに膨れ上がった子宮は、産後急激に収縮します。この収縮に伴う痛みを「後陣痛」と呼び、通常は産後2~3日でピークに達し、その後徐々に和らいでいきます。2人目や3人目の出産では後陣痛がより強く感じられることがあります。子宮の収縮は出血の停止や悪露の排出、ホルモンの分泌など重要な機能を果たしており、授乳中には赤ちゃんの吸引によって促されることがあります。痛みが強い場合は鎮痛剤が処方され、我慢せずに利用することが勧められます。

 

会陰や帝王切開の傷口が痛む

経腟分娩では会陰裂傷や会陰切開による痛みが生じ、座ることが難しくなることがあります。この際、円座を使用して傷口への負担を軽減しましょう。傷の早期回復には清潔を保つことが重要で、産後パッドの頻繁な交換や温水洗浄を利用して会陰を清潔に保つように心がけましょう。

帝王切開の場合は、産後1週間ほどは痛みを感じることが一般的で、鎮痛剤の使用が必要です。激痛を避け、無理をせずに自分のペースで生活するようにしましょう。傷口を寄せるテープの使用は、ケロイド状の形成を予防するために有益です。

 

乳房や乳首が変化する

出産後2~3日から母乳分泌ホルモンが活発に分泌され、赤ちゃんがおっぱいを吸うと分泌が盛んになります。早めに赤ちゃんに母乳を吸わせ、1日8回以上の頻回授乳を心がけましょう。吸い付きが難しい場合は、乳頭マッサージや搾乳をして刺激し、分泌を促進させることが重要です。

母乳の分泌量が増えると、乳房の張りが強くなります。この際は締め付けすぎないブラジャーを選び、母乳パッドをこまめに交換して清潔に保ちましょう。

 

ホルモンバランスの変化

産後、女性ホルモンの急激な減少や母乳分泌のためのホルモンの増加により、妊娠前とは異なるホルモンバランスが生じます。授乳中は生理再開が遅れることが一般的で、ホルモン変化により髪の抜け毛や肌の荒れなどのトラブルが生じることがあります。メンタル面でも不安定になりがちで、睡眠不足や育児のストレスが産後うつにつながる可能性があります。ホルモンの分泌はコントロールが難しいため、良質な睡眠や栄養バランスの良い食事、そして心のケアが重要です。話せる相手が身近にいることも大切です。

知っておきたい相談先リスト

他にも子育て支援センターや病院、保育園など相談窓口はたくさんあるので、事前に調べておき困ったことがあれば気軽に頼ってみましょう。

骨盤の変化

妊娠後期から出産に備えて、骨盤を緩めるホルモンが分泌されます。これにより、出産時に骨盤が柔らかくなりますが、産後も不安定な状態が続きます。赤ちゃんのお世話で骨盤が緩むことがあり、腰痛が起こることもあります。骨盤ベルトや骨盤矯正施術を活用し、正しい位置での使用や助産師の指導を受けながら対策を取りましょう。抱っこや授乳の際も無理をせず、快適な姿勢を保つために授乳クッションやタオルを活用し、産後1カ月からは軽い運動で体力づくりに取り組むことが大切です。

体調不良

産後、約8割のお母さんが体調不良を感じます。体のだるさや頭痛、立ちくらみ、無気力などが数ヶ月にわたり続くことがあります。自分のことを後回しにしがちですが、お母さんが健康であることは重要です。産後はゆっくり休養し、赤ちゃんだけでなく自分の身体にも注意を払いましょう。

 

産後起こりやすい体調不良

産後にはさまざまな体調不良が起こる可能性があります。

  • 産褥熱: 出産時の傷口が感染して発熱する。めまいや動悸がある場合は病院を受診。
  • 貧血: 出血が多かったり、疲れが取れにくい場合に起こりやすい。立ちくらみやめまいが続く場合は医師に相談。
  • 乳腺炎: 母乳の詰まりや乳頭の感染により発熱や痛みが生じる。母乳外来で受診が必要。
  • 腰・骨盤・股関節の痛み: 骨盤の広がりによる影響で痛みが生じることがあり、骨盤ベルトや産褥体操が効果ない場合は受診。
  • 悪露が続く: 通常より長く悪露が続く場合は子宮復古不全の可能性があるため、受診が必要。
  • 尿漏れ: 出産で緩んだ骨盤底筋が原因。産褥体操などで骨盤底筋を鍛えるトレーニングが必要。
  • 便秘・痔: 母乳育児やいきみで便秘になりやすい。水分補給と適切なトレーニングが重要。痔ができたら早めに受診。

これらの症状が続く場合は、医師の診察が必要です。

 

産後にやってはいけないことは?

産後の回復を考える上で、避けるべきことがあります。ただし、状況によっては避けられないこともあるでしょう。その際は、なるべく短時間で行うように心がけてください。

 

産後にやってはいけないこと
  • 水仕事
  • 目が疲れること
  • 長距離や長時間のお出かけ
  • 激しい運動・ダイエット
  • 重いものを持つ
  • 喫煙
  • 飲酒
  • カフェインの摂り過ぎ
  • 産後1ヶ月以内の性行為
  • 湯舟に浸かる入浴

水仕事

産後は身体が冷えやすく、冷えが血流を妨げて回復を遅らせる可能性があります。水仕事をする際には温かいお湯を使い、短時間で済ませるように心がけましょう。冷えは不調の原因にもなりますので、産後の女性は特に注意が必要です。

 

目が疲れること

昔から目の使用には注意が払われており、かつては読書や針仕事が主でしたが、現代ではスマホ、パソコン、テレビなどのブルーライトが目に与える負担が増加しています。これらの機器を使用する際は、時間を制限し、できるだけ短時間にするか、ブルーライトカットの眼鏡を使用するなどして目への負担を軽減するよう心掛けましょう。

 

長距離や長時間の外出

産後すぐに赤ちゃんと一緒に長距離・長時間の外出は、母子ともに大きな負担となります。1ヶ月検診で問題がなければ、最初は近くのスーパーで買い物をするか、天気の良い日に短時間の散歩を始め、徐々に慣らしていくことが重要です。

 

激しい運動・ダイエット

 

妊娠中に増えた体重が産後なかなか戻らないことが心配ですが、激しい運動や食事制限は産褥期には避けるべきです。産後の体を動かす場合は、寝た状態でできる産褥体操から始め、バランスの良い食事を心がけましょう。産後2カ月ごろからは様子を見ながら徐々に運動の負荷を増やすことが良いです。

 

重い荷物を持つ

産後は赤ちゃんよりも重いものを持つことを避け、下半身や腹部に無理な力を入れないようにしましょう。これにより、骨盤や子宮にかかる負担が軽減され、回復が促進されます。特に子宮がまだ戻っていない状態では、負担をかけることで子宮脱などのリスクもあります。また、赤ちゃんのお世話をする中で腱鞘炎になる可能性があるため、家族や外部のサポートを活用して、重いものを避けるようにしましょう。

 

喫煙

母乳育児中に喫煙すると、母乳中のニコチンが赤ちゃんに移行し、中毒のリスクがあります。これにより、赤ちゃんの興奮状態が引き起こされ、眠りが浅くなる可能性があります。また、下痢などの症状も見られることがあります。さらに、タバコの煙は呼吸器系の疾患や乳幼児突然死症候群の発症リスクを高める可能性があります。母乳育児中でなくても、赤ちゃんがタバコの煙を浴びることは健康被害のリスクを増加させるため、禁煙が重要です。

 

飲酒

母乳育児中に飲酒すると、アルコールが母乳から赤ちゃんに移行し、成長を妨げる可能性があります。授乳の2~3時間以上後に飲酒することが推奨されますが、特に月齢の小さい赤ちゃんの場合、授乳間隔を開けるのが難しいこともあります。また、飲酒は母乳の分泌を促進するホルモンの働きを抑え、母乳量が不足する可能性があります。産後の飲酒は絶対に禁止されているわけではありませんが、授乳間隔が開くまでは慎重に行うべきです。

 

カフェインの摂りすぎ

産後も妊娠中と同様に、カフェインの摂取には注意が必要です。カフェインも母乳を通じて赤ちゃんに移行するため、赤ちゃんが興奮状態になったり、眠りにくくなる可能性があります。摂取量には慎重に配慮しましょう。

 

産後1カ月以内の性行為

産後の性行為は、体調の回復や産後の傷の癒え具合を考慮して行う必要があります。通常は1ヶ月検診を受け、体調に問題がなければ再開してもよいでしょう。ただし、帝王切開の場合は産院によっては1年あけるように指導されることもあります。生理が再開していなくても排卵が起こり、妊娠の可能性があるため、家族計画や避妊には十分な注意が必要です。

 

産褥期(産後の肥立ち)が終わるのは6~8週間後

産褥期は、女性の身体が妊娠前の状態に回復する期間で、一般的には6~8週間かかります。この期間では妊娠中のホルモンが急激に減少し、子宮が収縮して元の状態に戻るため、心身ともに不安定な状態になります。疲れやすさやイライラ、産後うつの可能性があり、また、会陰切開や帝王切開による痛みも感じられることがあります。この期間は休息を重視し、できるだけ安静に過ごすことが大切です。

産褥期の過ごし方

産褥期は赤ちゃんのお世話以外はゆっくり休むことと、心身の回復を優先するための産後ケアが重要です。ご主人に育休を取ってもらったり、里帰りや家事のサポートを頼んだりすることがおすすめです。以下、産褥期の過ごし方について時期ごとに紹介します。

 

産後3週間「とにかく身体を休める」

産後3週間は休息が最優先事項です。赤ちゃんのお世話以外は控え、赤ちゃんが寝ている時にはできるだけ横になり、短時間でも質の良い睡眠を心がけましょう。夜間の授乳もあるため、無理をせず3週間はゆっくり過ごすことが大切です。パートナーや家族のサポートが難しい場合は、家事代行サービスの利用も検討しましょう。妊娠中に産褥期の過ごし方について夫婦で話し合うことも重要です。

 

産後3~4週間「少しずつ家事をして床上げを目標に」

産後3週間からは徐々に普通の生活に戻る練習を始めましょう。この時期は床上げの時期で、簡単な家事から再開できます。自身の身体と相談しながら、痛みや負担のない範囲で料理や洗濯、掃除などを行います。赤ちゃんの見守りが可能な場合は、短時間の散歩や近くの買い物も気分転換になります。

 

産後5~8週間「普段の生活に戻れる」

1カ月検診で母子ともに問題がなければ、焦らずに無理をせず、少しずつ元の生活に戻していくことが大切です。産後の回復には個人差があり、5~8週間で妊娠前の状態に戻ることが一般的ですが、3ヶ月~1年かかることもあります。会陰切開や帝王切開の傷口も癒えてきますが、体調優先でお宮参りなどの計画を立てる際は、無理をせず慎重に検討しましょう。

 

産休中のお母さんは、産後8週間未満に就業することが原則禁止されています。企業は妊産婦に産前産後休暇を取らせる義務があり、この違反は懲役や罰金の対象となります。産後6週間からはやむを得ない理由で復職が可能ですが、体調不良が長引く可能性もあるため、なるべく産後8週間は休養することが重要です。

 

産後の回復を早めるために

安静にする以外に、産後の回復を早めるための3つのポイントを紹介します。

 

産褥体操を取り入れる

産後すぐに始められる産褥体操は、身体の回復を助けるために有効です。足首や肛門の簡単な動きを寝たままで行い、妊娠や出産で緩んだ筋肉や皮膚を元に戻し、子宮や骨盤・膣の回復を促進します。体を動かすことでリフレッシュもできるため、無理のない範囲で取り入れてみましょう。

 

骨盤ケア

産後できるだけ早い段階で緩んだ骨盤をケアすることは、もとの状態に戻りやすくなります。骨盤が緩んだままの状態を放置すると、将来的に下半身太りや腰痛・尿漏れを引き起こす可能性があります。産後は骨盤ベルトを使用して適切にケアし、セルフケアを始めることができますが、接骨院での骨盤矯正は産褥期を過ぎてから行うべきです。

 

産後に避けたい座り方・立ち方

産後の緩んだ骨盤では、「横座り」「割り座」「足組み」などの座り方は避けるべきです。これらの座り方は骨盤の歪みの原因となります。癖になってしまった場合は、左右どちらかだけでなく反対の座り方も試してみると良いです。また、立つ際には片足に体重をかける立ち方やお腹に力を入れない立ち方を避けるべきで、これらの姿勢は下腹がへこみにくい原因にもなります。骨盤を意識した座り方と立ち方を心がけて、骨盤が歪まないようにしましょう。

 

バランスのよい食事を摂る

産後、赤ちゃんとの生活が始まる中で、出産で消耗した身体を回復させるためには、栄養バランスの良い食事が重要です。母乳育児の場合、母体が摂取した栄養が母乳を通して赤ちゃんに影響します。インスタント食品や冷凍食品は栄養価が低く、乳腺を詰まらせる原因になりますので、注意が必要です。産後はたんぱく質、カルシウム、鉄分、葉酸、DHA、EPA、糖質などの栄養素をバランスよく摂取し、水分補給も重視しましょう。葉酸サプリもできるだけ続けることが大切です。